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やまだ農園5年の 軌跡&農業・農村と 幸せ連鎖を探る」

石岡市八郷地区で茅葺屋根の古民家を拠点にし、産業としての農と一線を画し、自然との共生や地域のつながりを大切にしながら、「里山農業」を実践しているやまだ農園。その取り組みは、自然と共生し、地域との深い結びつきを築くことで共助型社会の実現を目指しています。
その5年の軌跡のお話しとやまだ農園と活動を共にする中島紀一先生の視点を聴く座談会が開かれました。
春まだ遠い2月の終わりでしたが、茅屋根のなかの囲炉裏を囲みながらの座談会は終始あたたかな空気に包まれてました。
子どもの笑い声に包まれながら行われた約2時間の座談会の内容をまとめました。

農的生活から生まれる幸せの連鎖―やまだ農園の5年の歩みと中島先生の視点

山田晃太郎さんが営むやまだ農園は、八郷において有機農業の新しい形を模索し続けています。やまだ農園の5年間にわたる取り組みは、自然との共生と地域との深い結びつきを築くことを目指し、共助型社会の実現に向けて歩んできました。この試みは、新たな農業経営のモデルを提示し、多くの示唆をもたらしています。以下に、山田さんと中島先生の発言を通じて、これらの取り組みとその背景を詳しく見ていきます。

やまだ農園の起源と有機農業の実践

2016年に八郷に移住した山田さんは、有機農業の研修を経て2017年に独立しました。「私たちは、自然による持続可能な農業を追求している」と山田さんが語るように、彼は「草原を目指す畑」や「命を育む水辺を目指す田んぼ」など、多様な生態系を維持する農業を実践しています。「自然の命を作物に乗り移らせる」という理念を掲げ、生態系を崩すことなく農業を行える仕組みを築いてきました。

中島先生も自然を活かす農業の重要性を強調し、「耕作放棄地が持つ自然性を活かすことが、持続可能な農業経営につながる」と述べています。

地域コミュニティとの協力:「結(ゆい)」による相互扶助

やまだ農園の成功の鍵の一つが、地域コミュニティとの結びつきです。結(ゆい)の概念を通じて、多くの地域住民が農業を支え合い、共同体意識を高めています。中島先生は、「ゆいを通じた人々のつながりが、農園を地域社会の中心にしている」と説明しています。具体的には、田植え会や生物観察会を通じ、地域住民が農業活動に参加することでコミュニティの一体感が生まれています。

茅葺き古民家を活用した地域資源の利用

やまだ農園は茅葺き屋根の古民家を拠点に活動しています。NPO法人八郷・かや屋根みんなの広場を立ち上げ、単なる文化財の保護に留まらず、地域のシンボルとして機能しています。
茅葺き屋根を維持するプロジェクトには多くのボランティアが参加し、地域資源を活用することで持続可能な活動を行っています。これは、地域の豊かさや伝統的な価値を見直す手立てとなっており、農業と地域社会の共生の象徴と言えます。
中島先生は、「茅葺き屋根は農業の枠を超え、地域の自然資源や伝統的価値と密接に結びついている」と。これによって、農業が単なる生産活動ではなく、自然環境全体と調和することができるモデルとなり、現代農業の新たな視点を提供しています。

教育との融合と次世代育成

やまだ農園では、子どもたちの主体的な学びを支援する環境を提供し、「待つ力」の重要性を述べています。中島先生は「教育においても、子どもの主体性を大切にし、自然に即した成長を促すことが必要だ」と。このアプローチにより、農業の実践を通じて得た知見を教育に活かし、自然との関係を大切にする精神を子どもたちに伝えています。

持続可能な農業経営の模索

やまだ農園は、自然の摂理を尊重し、経済的な利益追求を超えて、コミュニティと自然の中に新しい価値を創出しています。地域社会の活性化を図り、持続可能な未来を描くための一つの指針を提供しているのです。

聞こえる声:山田さんと中島先生の発言から

山田さんは、農業を通じて人々が心豊かに交流する場を提供することが重要であると考えています。
中島先生は「自然の命を大切にし、人とのつながりを深めることで、私たちは幸せの連鎖を作り出している」と述べています。また、こうした活動が単なる農業に留まらず、地域社会全体を巻き込んでいくことの重要性を強調しています。
「農業だけでなく、自然や地域の資源と繋がることが重要だ。茅葺き屋根はその一例であり、地域の自然資源と密接に結びついている。この場所が人々の交流と学びの場となり、新しい価値を生むことに貢献している」とも。

やまだ農園の未来―懐かしい未来を求めて

やまだ農園が示す新しい農業の形は、地域社会の心の豊かさや社会的価値を重視しています。共助型社会の実現を視野に入れた、持続可能なコミュニティづくりへの第一歩であるといえます。やまだ農園の5年間に及ぶ挑戦と実践は、自然と共生する農業の道を新たに切り開き、地域との関係性を深め、持続可能な未来への明確な回答を提示してくれます。

やまだ農園の取り組みは、自然と人間の共生を基盤とし、地域社会と協力しながら持続可能な農業経営を模索することの意義を教えてくれる、価値ある指針となっています。

座談会のまとめを振りかえって

やまだ農園の取り組みは地域に密着した温かさを感じさせてくれます。自然との共生や地域コミュニティの形成といった理念に基づくやまだ農園の活動は、現代の生活に疲れた人々にとって、心の拠り所となりうるのではないでしょうか。特に「結(ゆい)」という概念を通じて、地域住民が互いに協力し合う様子は、今の時代に忘れられがちな人とのつながりを思い出させてくれます。また、教育の現場においても、待つ力や子どもの主体性を尊重する姿勢は、日々忙しい生活の中で見落とされがちな大切な価値観であり、多くの親たちにとって参考になるのではないでしょうか。実際に自然に触れ、共同作業や世代を超えた交流を体験することは、子どもたちにとって学びを深める機会となるに違いありません。やまだ農園の活動は、私たちに生活の質を見直し、取り戻すべき大切なものを教えてくれるように思います。

文 岡崎靖/写真 山野井咲里