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市民が支え合う茨城の農業

CSA(地域支援型農業)の可能性を探る

唐崎 卓也 先生

昨年実施したCSA実践農家や消費者を交えた座談会から、CSA(Community Supported Agriculture)が生産者と消費者という立場の概念を取り払い、生活者として共に農を支える( 農でつながる) コミュニティづくりであることがわかってきました。そこで、今年度はCSA について長年研究をしてきた農研機構の唐崎先生をお招きし、市民が支え合う茨城の農業~CSA(地域支援型農業)の可能性を探る~と題し、CSA が茨城で広がる可能性について海外の先進事例や国内での事例を交えてお話しいただきました。

県内農業者をはじめ大学関係者、生活協同組合、地域活動など様々な分野で活動しているかた20名の参加のもと、唐崎先生と一緒にCSA(地域支援型農業)とはどんな活動かをひも解き、茨城での広がりの可能性について意見を交わしました。

CSAとは?

CSAはアメリカが発祥とされ、日本では地域支援型農業と訳されることが多く、唐崎先生もこの概念に重きを置いて研究しています。CSAは、「生産者と消費者が前払いによる農産物の定期契約を通じて相互に支え合う仕組み」。作付前に定額で契約することにより農家にとっては作付前に資金が確保できる。そういう意味において農家の経営面でのメリットが注目されています。しかし、唐崎先生は、「前払いという形態はあくまで相互に支え合う仕組みを体現した結果であり、前払いが一番重要な部分ではありません。むしろ相互に支え合う仕組みというのをどういうふうに作り上げるかというところにCSAのコアな部分があるのではないでしょうか」。と言っています。

アメリカでは、消費者が求める安心安全な有機野菜が購入できるルートが狭く、且つ有機農産物の生産者も販路が限られていました。その課題解決のため、消費者が生産者と前払い契約をし、生産者に資金を提供することにより有機農産物を安定的に購入できる仕組みを作りました。

CSAをどう日本語に訳す?

今回の勉強会に参加されたOさんはCSAに似た消費者参加型農業を実施している農家さんです。会員さんにCSAの意識共有し連携させてもらっているとのこと。その際CSAをどう日本語訳し説明したら良いのか悩むそうです。唐崎先生も「CSAの訳し方は研究者の中でもすごく議論されている」と話されていて、「コミュニティを日本語で訳すと、年配者の中では共同体と言われたり、共同体って例えば農村集落の自治、自治会的な区や行政的なイメージをされてしまう」と。またCSAのCは「本当にコミュニティなのか、今、現実にはコンシューマーに近いんじゃないか」とも話されていました。

源流は日本

CSAの源流は日本だとアメリカでCSAを始めた方々の論説のなかに書かれているそうです。日本の産消提携です。

唐崎先生
「この産消提携が始まったのは1970年代からですね。茨城でも八郷なんかは先駆け的なところだったと思いますけれども、千葉県とか兵庫県とか、いくつか盛んだったところがあります。そういったところで産消提携が始まり、消費者がグループを作って安心安全な作物をつくる生産者と直接契約するというような活動も行われてました」。

エリザベス・ヘンダーソンさんが始めた頃のCSAは、原理的CSAだといいます。原理的CSAと現在のCSAについて唐崎先生はこのように述べています。

唐崎先生
「原理的CSAについて、例えばそこの農場で作られた野菜っていうのは、小社会とシェアするという考え方。シェアという言葉をよく使うんですけれどもそこでとれたものは、必ずしも農家のものじゃなくて、皆さんの消費者会員で共有するものだという考え方。他に出荷先を広げるという考え方はかつての古いCSAではなかったのですが、アメリカで今ものすごく言われてる多くのCSAというのは、ファーマーズマーケットへの出荷をしながらその一部としてCSAをやってるというようなところが多いかと思います」。

日本の事例

日本のCSAは非常に少なくまだ20に満たないぐらいだそうです。ここでは、唐崎先生が紹介してくれた中から2つの事例を紹介します。一つ目はリアルCSAと言われている、「なないろ畑農場」です。

唐崎先生
「代表の片柳義春さんは元々非農家から新規就農してこの農場を作り上げました。三年前に亡くなられて、存続が危ぶまれたのですが消費者会員の中から農業をしっかりできる方がコアになってずっと農園を維持してます。かなり都市化された地域の中の遊休農地を借り上げて、生産をしています。こういった街中で、片柳さんが最初始めたっていうのは、環境保全に非常に関心がある方で公園の落ち葉とか枝を行政が回収して燃やしてるのはどうもしっくりこない、やっぱりこれは資源である、というふうに考えて、その落ち葉集めから落ち葉堆肥作りを始めたそうです。それが段々徐々にせっかく肥料を作ったんだから農業をやってみましょう。サツマイモ作りから始めてじわじわとその農業に本格的に関わるようになっていったということです。で、CSAは2006年ぐらいに自然となっていったそうです。自然となってたということは片柳さんも最初CSAって言葉は知らなかったそうです。消費者会員の方々と最初個別に誰がさつまいもどれだけ持ってった、野菜どれだけ持ってったと個別に清算してるのが面倒になったから、もう会費制にしちゃいましょう、前払い会員制にしよう、と運用し始めた頃に、アメリカの研究者がたまたまこちらの農園に視察に来られて、これCSAですねって言われたそうです。あれ、CSAってなんだろうということで、よく聞くと全くそのCSAそのものだっていうことだったそうです」。
次の事例です。

唐崎先生
 「飯野農園さんでは新規就農から始まってじわじわと力をつけ、CSAも立ち上げました。CSAは売り上げ全体の割合からしたら小さいんですけれども、重要な要素だというふうに、おっしゃっていました。先ほどのなないろ畑とはちょっと違った形で、品目別に置いておいて消費者会員が取っていくというやり方です。昼間に取りに来れない消費者の方用に保冷庫を用意しておいて、夜になったらここに入れておけば鮮度が保てるということです。これはなないろ畑も同じやり方をしてます。夜遅く仕事から帰ってくる方でも野菜を取りに来れます」。

なぜ日本で普及しないのか

唐崎先生
「なぜ日本でCSAが今まであんまり普及してこなかったのか。東京農工大学の野見山先生、今もう退官されましたけれどもこういったことを書かれてます。前払いって日本人はなかなかなじみにくい。それからなかなか継承しづらい。ただ、継承しづらいっていうのは大体任意団体のままであるところが多かったということなんですが、なないろ畑のように法人化したところもありますんで、これはクリアできるかなと思います。それからリスクとコストを均等に負担する理念ってなかなか難しいんじゃないのっていうようなこともおっしゃってます。それからもう一つ、日本の中では有機農産物を手に入れようと思えば、今いろんな流通体がありますね」。

つくば市の生産者と消費者の懇談会で唐崎先生がスピーカーとなってCSAについて話された時のこと。こんな意見がありました。『私達はプロの農家として質の高い野菜を作ることで対価をもらっている。不作になるかもしれないのにお金を先にいただくことには違和感がある』『消費者グループの方からの働きかけがなければ難しいよ』『生産者にカリスマ性がなければ集まらないんじゃないの』その中で1 人だけ関心を持ってくれたのが飯野農園のご主人だったそうです。

唐崎先生
「飯野さんと話したときに、すごく印象的な言葉があって、『生産者の顔が見える野菜っていうのはよく言うけど、消費者の顔が見える農業をやりたい』そんなことおっしゃったんですね。これがまさにCSAじゃないかなと思ったんです」。

コーディネーターが必要

CSAが普及するにはコーディネーターが必要ではないかという意見が参加者から出ました。また、参加者のNさんから、支援という言葉を使うのではなく参加する、という形でいろんな人がいろいろな形で農業に参加していけば農家も地域の中に新しい農業的な流れを作る取り組みができるのではないか、という話も出ました。

CSAの新しい動き

飯野農園さんのところに去年ぐらいから高校生からの問い合わせが増えてきているそうで、飯野さん曰く日本では知ってる人はほとんどいないぐらいの印象だったのが、高校生が興味を持ってきてくれてそこまで浸透してきたというのは何か違う動きがあるのかな、と感じているそうです。

茨城の可能性

茨城は農業に適した地域。農業をするには恵まれてるといいます。唐崎先生が言うように消費者会員が単に生産者から買い上げる、買ってあげるという関係じゃなくて、そのメリットは消費者にも与えられてる、お互いにその価値を共有し合ってるというところが重要だと思います。Nさんからの言葉で新しいチャレンジ、問題提起していく、ということがこれからの農業には必要なのではと思いました。

唐崎 卓也(からさき たくや)

国立研究開発法人農研機構農村工学研究部門に勤務。農業・食品等に関わる広範な研究を行う農研機構にあって、農村工学研究部門は、主に生産基盤整備、地域資源を活用した農村振興等に関する研究を実施。

専門分野:千葉大学園芸学部造園学科卒 専門分野は農村計画、緑地学 研究歴:農水省農業工学研究所、農研機構中央農研センター、農村機構農村工学研究部門に在籍。農産物直売所を核とした地域活性化、住民参加のむらづくり、里地里山保全、都市農村交流、園芸福祉(農福連携)などの研究を実施。現在、農山村の再生可能エネルギーに関する研究に従事。