週末は野菜の受け渡しの日。飯野農園さんの家の前のテントには採れたばかりの野菜が並んでいる。長ねぎ、ほうれん草、八つ頭、エビ芋、辛味大根、じゃがいも、この時期に採れる野菜だ。10種類程度の中から5〜6種類の野菜を選んで会員さんは持ってきたマイバックに入れて持ち帰る。「じゃがいもは2種類から選べるよ。さやあかねはホクホクで、アンデスレッドは味が濃厚。そんなに煮崩れはしない」と飯野恵理さん。「迷うな」という会員さんに「2種類にしたらいいよ」なんてやりとりが。「長ねぎを来週に使いたいんだけれど、日持ちはどれくらい?」と聞く会員さんに「米袋に入れて外に置いておくといいよ。家の中だと乾燥しちゃうから」という保存方法のアドバイスも。
直接会ってやりとりできるからこその会話が聞きとれる。また、子供たちが授業で行うトマト栽培についても栽培以前の土づくりの事なども話している。話題は食から教育など暮らし全般に広がる。会員さんが子供を連れてくれば子供同士が遊んだり、お母さん同士のおしゃべりも始まったり。自然と人が集まって交流の場となっている。
CSAは人が中心。作るひと、食べるひと、共に暮らしやすい仕組み
「何気ない会話をして。そういうのが大事。CSAをみんな難しく考えてしまうみたいなんですけど、こんなもんです」と恵理さん。飯野農園さんがCSAのかたちを取り入れたのは、今から7年前。かつては野菜ボックスを会員さんの家まで配達していた。子供が産まれて、今までのやり方を続けていくのが難しくなった。そのとき知ったのがCSAのスタイルだったという。農家さんにも会員さんにもメリットがある仕組みになっている。無理なく安心安全な暮らしができる。
CSA 共に暮らしやすい仕組みとは
CSA-Community Supported Agriculture は日本語で地域支援型農業と訳される。地域支援型農業とは今までの農業とどう違うのか。
1986年アメリカで最初のCSAの農場ができた。それは生産者が流通業者を介さずに消費者に直接販売する方法だ。地域の生産者と消費者が共に顔の見える関係の中、会員制で農作物を契約販売する。会員は決められた会費を前払いし、農家はそれを予算に種、堆肥、資材などを購入。そして定期的に旬のセットを会員に配る。分配は戸配ははせずに農場など、特定の場所にて行われる。農作業や経営に会員も参加する。豊作時はたくさん分配され、不作時はリスクも共有する。アメリカの有機農家の9割がこの仕組みを使うと言われている。
これまでの農業のやり方との違いは、会費の前払いと戸配をしないこと。それによって農家さんは予算を確保でき、畑の準備が安心してスムーズに進めることができる。会員さんの協力により、戸配が不要なのでそれらにかかっていた手間と時間を本来の農作業に充てることができる。野菜分配の経費削減にもつながる。それに対して会員さんは新鮮で高品質な作物を得ることができる。また、食や暮らしについてもより興味をもち、知ることで健康的で安心安全な暮らしへと結びついていく。直接顔を合わせることで、農家さんと会員さんとの間に信頼関係が生まれ、強いつながりに発展していく。どちらがというよりお互いがその時々で助け合って取り組んでいる。
飯野農園さんでは、一年を前期後期に分けて会員を募集。会員は毎週コースか隔週コースを選び、農園まで取りに行く。野菜の分配日にお邪魔させてもらったのだが前ページで紹介しているとおり会員さんとの関係性が印象的でお互い信頼し合っている様子が伺えた。時期がずれて出荷できなくなったオーガニックチューリップを会員さんや会員さんの周りの人たちが花束として購入してくれて完売して無駄にならなかったというエピソードを聞いて普段の信頼関係があってこそだと感じた。また、会員さんが野菜の分配日でなくても農園におしゃべりをしに来たりと近しい関係性だ。CSAの形は決して一つではない。アメリカから伝わっただが国土面積や文化の違いもあり、そのやり方をそのまま日本に落とし込むのはむずかしい。それぞれのライフスタイルに合わせて、日本流に発展させていくのが必要だそう。CSAは人が中心。どうやったら、お互いがよりよく暮らせるか、生産者と生活者両者が話し合って作り上げていくこと、自分たちが「どんな生き方をしたいか」にもつながる。
CSAそれぞれのかたち
「会いにいける農家」をめざし、実践している農家さんがいる。「農とつながる人たち」のページでも紹介している「晴れ晴れファーム」の西村さんご夫妻。「生活者が気軽に農家に会いにいけるということは、つくる人と食べる人のお互いが分かり合える関係を築くことができる」とイベントを開催している。農作業をしたり、農作物を収穫したり、調理した作物を食べたり、参加者が体験しながら楽しめる内容になっている。お互いの顔が見える関係性は刺激にもなっているという。この野菜が美味しかった、昔ながらのトマトを作って欲しいなどのフィードバックがもらえる。みんなから求められたら、努力して作っていきたいと話す。そして、生活者自身が毎日口にする農作物について、どのような環境でどのように作られているのか知ること、学ぶことも大事だと。それが安心安全な食と暮らしにつながっていく。
言葉だけでは分からなかったCSAの取り組みが直接見たり聞いたりしたことで、直接顔を合わせる関係性が食や暮らしを豊かにしてくれると実感した。